お侍様 小劇場 extra

   “モザイク、きらちか” 〜寵猫抄より


西日本や九州地方が襲われているほどの、
連日の大雨とまでは行かないが、
それでもどんよりと雲の多い日が続き。

 『まま、梅雨どきにしっかり降ってくれないと、
  夏場に水不足だと大騒ぎになってしまうからな。』

それでも久方ぶりのいいお天気へは、
蒸し暑さは変わらぬながらも、
気分のほども違って来るものなのだろう。
真っ新な空の色を見るのは久しいなと、
いいお顔で窓からお外を眺めておいでの御主様で。

  そしてそして
  そんな勘兵衛の目線の先では

小さな小さな人影が、
ひょこひょこぴょんぴょんと弾んでおいで。
スズカケや桜、紫陽花などなどの、瑞々しい新緑が、
そちらも久しい陽光に微笑っているものか、
明るい黄緑色の若葉を先端へと頂きつつ、
それは鮮やかなグラデーションを見せており。
そんな緑の最中にあっては一際映える金の綿毛が、
そりゃあ軽やかに、ふわふわひょこひょこ躍って見える。
今は青々としたツツジの茂みのうえ辺り、
その先だけが見えたり、はたまたお顔までもが伸び上がったり、
色んな見えようをする坊やの姿を差して、

 「あれは、久蔵か?」
 「え? ありゃ、出てってましたか。」

勘兵衛がいたので、
てっきりその周辺で遊んでいるものかと、
油断していたらしき七郎次が。
こちらさんも久方ぶりだと腕を鳴らして挑んだらしい、
洗濯ものとの格闘を思わせる、
大きなカゴを抱えて通りすがったのが、
あらまあと立ち止まっての、同じほうを見やったほどで。
白いお顔が見やった先では、
ちょうど紫陽花の茂みの陰からひょこりと飛び出して来た坊やが、
両足を揃えてという、やや覚束ない跳ねようで、
そんな足元をじいと見下ろしながら、
ひょいひょい・ぴょこりと、再び跳ね始めており。
ハレーションを起こして見えそうなほどの色白な頬や、
半袖半ズボンの先から伸びた愛らしい腕とあんよが、
時折、木洩れ陽を受けて光るのがまた、何とも言えず愛らしく。

 「一人で遊んでおるのかの?」
 「ええ。ああやって、
  芝の上へ落ちる木洩れ陽を追いかけたり、
  けんけんするみたいに明るいところを踏んで数えてたり。」

可愛いもんでしょうと、我が手柄よろしく鼻高々に胸を張る七郎次なのへ、

 「…数える?」

揚げ足取りをしたいんじゃあないが、それはさすがに言い過ぎではと。
少々怪訝そうなお顔になった壮年殿、
顎先のお髭へ手をやりつつ、小首を傾げて見せたが、

 「ええ、ちゃんと数えてるんですってば。」

そこから庭へ出るのだろ、沓脱ぎの上にあったサンダルへ足を入れつつ、
七郎次はさらりと言い返す。

 「こないだも同じように遊んでたんで見てましたが、
  かわいらしいお声で、跳ねた数だけ にゃあにゃってvv」

 「…………それは数えているとは、」

言えないのではなかろうか、と。
言い返しかかった勘兵衛だったが、それへと重なるかのように、

 「にゃっ、みゃあうvv」

大人たち二人が揃っているのへ、
彼の側でも今やっと気がついたのだろう。
かすかに力んで、だが、まだ幼さが勝
(まさ)った大きな瞳を、
どんな若葉にも負けない初々しさにうるるんと潤ませて。
出て来たんだ、やっほうと、はしゃぐように、こちらへ向けて駆けて来る。
とてちて、たかたか、相変わらずの幼い歩きようなのへ、
七郎次なぞは、
抱えていた大カゴを、リビングの小あがりへわざわざ置いて、
両手を空けて待ち構えたほどであり。

 「にゃあぁんvv」
 「ほ〜ら、到着だvv」

えいっと飛び込んで来た小さな坊や、
ふんわり受け止め、ひょーいっと抱える呼吸の見事さもまた、
あやすのも目的のうちと思わせる、楽しげなタイミングや笑顔なのが、

 “手慣れたものよな。”

時たま振るう剣の腕と、
今のご時勢にたまさかウケているらしい執筆という才を除けば、
手先のあれこれも、人付き合いや社交術も、
微妙に不器用な勘兵衛にしてみれば。
それもまた“大したもんだ”と感心してあまりある、
ある種の技や芸に匹敵するらしく。

 「ほら勘兵衛様、今日も可愛い久蔵ですよvv」
 「にゃあにゃvv」

どこまで言葉が通じているやら、
腕の中へと抱え込んだ小さな坊や、
宝ものだと言わんばかりに掲げてみせての、
七郎次が目映い笑顔になるのもまた、
勘兵衛には心躍らせる眼福には違いなく。
久方ぶりの晴れたお空に負けないくらい、
明るく澄んだ青い眸に、ついつい見ほれた作家先生。
確かに雨も必要ではありますが、
気持ちまでもが晴れやかになるほど、
梅雨の合間の晴れ間も大切で。
それは丁度、秘書殿の暖かい笑顔と同じかと、
こんな格好で再確認していた島田先生。
どうされましたか?と覗き込まれて、
ああいや何でもないと、白々しく誤魔化すのへと、
塀の上にいた黒猫さんが、半ば呆れつつも見やってたそうな。





   〜Fine〜  2010.06.28.


  *雨の間はやっぱり退屈だったらしい猫キュウさんで、
   少しでも晴れると、こんな風に元気にお外で遊んでるようです。

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